誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

"YES"は前に進むためのスイッチ/『イエスマン "YES"は人生のパスワード』

"YES"は前に進むためのスイッチ/『イエスマン "YES"は人生のパスワード』:目次

  • 不思議な説得力のある物語
  • 「YES」と言った先に
  • 行動を促すためのスイッチ
  • 映画の概要・受賞歴など
  • 参考リンク

不思議な説得力のある物語

人生は決断の連続だと言える。大きなことから些細なことまで、わたしたちは常に決断に迫られる。そんなときに、こころよく「YES」と答えられればいいが、そうすべてに「YES」と答えられるわけではない。どうしても時間的金銭的都合がつかないという理由や、性格の合わない人物やどうしても嫌いな人物がいるからという理由、あるいは単に気が進まなかったり、面倒くさかったりというような理由で、言い訳を添えながら「NO」と答えるか、適当に曖昧なことを言って返事や決断を先延ばしにしまうことがある。

映画『イエスマン "YES"は人生のパスワード』の主人公カール・アレンは、個人融資の審査や友達からの誘いなど、とにかく適当な理由をつけて「NO」と断る銀行員。3年前に離婚して以来、カールはひとりで家のソファに寝転んでテレビをただぼんやりと眺めるだけの、他人から見れば孤独で無気力な生活を送っていた。そんなカールは、上司のノーマンから昇進がダメになった話を伝えられ、友人ピーターの婚約にも素直に喜べず、ついに婚約パーティーすらすっぽかす。

さすがに怒ったピーターから「もしお前が生き方を変えない限り、孤独のまま終わる人生が待っている」とまで言われ、突き放されたカールは自分が老人になって孤独のまま死んでゆく悪夢まで見てしまう。そんなとき、カールは偶然にも再会した古い友人のニックから誘われたセミナーに参加し、ありとあらゆる機会に「YES」と答えなければならない誓いを立ててしまう……、という物語だ。

そのせいで、カールの元に幸運が舞い込むが、同時に痛い目にも会うし、ひどい目にも遭遇してしまう。それでも、カールは傷をつくりながら、ことあるごとに「YES」と答え続ける。コメディ映画なので、何も考えなくても終始楽しく面白く観てしまうが、観終わったあとに「自分も”YES”と答え続けてみようかな……」との思いが頭をよぎってしまうほど、不思議な説得力のある物語だ。
Yes


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

続きを読む

永遠に叶うことのない夢/『サンセット大通り』

永遠に叶うことのない夢/『サンセット大通り』:目次

  • もがきながら進む方向が誤っているゆえの破滅
  • 永遠に叶うことのない夢を抱いた人間たち
  • 破滅へのレールを敷いたマックスとベティ
  • ひどく間違ったやさしさと愛情
  • 太陽が沈み、夜の闇が訪れる『サンセット大通り』
  • 映画の概要・受賞歴など
  • 参考リンク

もがきながら進む方向が誤っているゆえの破滅

映画『サンセット大通り』は、永遠に叶うことのない夢を抱えたふたりが出会ってしまったことで、まっすぐ破滅へと突き進んでしまう物語だと言えるだろう。過去の栄光にすがりつく人間と、破れた夢にぐずぐず未練を抱えた人間とが出会い、少しずつ破滅へ向かってゆく過程を描いている。それゆえに、この物語はひどく哀しくて恐ろしい。

サンセット大通りにある屋敷のプールで、ひとりの男の死体が浮いているのが発見される。パトカーやマスメディアの車が、猛スピードでサンセット通りを駆け抜け、プールに浮かぶ死体の元に駆けつける。男の身体には銃弾を撃ち込まれた痕。不吉で不穏な予感をわたしたちに抱かせ、物語は幕を開ける。

本作の製作は1950年。実に60年以上昔の作品にもかかわらず、そこに描かれたものは、今なおわたしたちがそこかしこで直面する光景である。愚かしさや弱さを抱えた人間が、なんとか現状から抜け出そうともがくが、もがきながら進む方向が誤っているゆえに、少しずつ破滅へと自らを導いている光景だ。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

続きを読む

ハズレを引くこと/2017年1月のまとめ

『誤読と曲解の映画日記』:2017年1月のまとめ目次

  • ハズレを引くこと
  • 『誤読と曲解の映画日記』今月のまとめ
  • 『誤読と曲解の読書日記』今月のまとめ

ハズレを引くこと

1月も最終日になりましたが、今年最初の今月のまとめです。今年もよろしくお願いいたします。


さて、このあいだ、レンタルしたDVDでとある映画を観たのですが、ひさびさに「あ、これはハズレだね」という作品でした。ひさびさにハズレを引いたので、むしろ新鮮ささえ感じました。映画に限らず読書でもそうですが、ある程度はハズレを引くことも経験として必要なことです。

しかし、なぜこの映画が自分にとってハズレだと感じたのか、この映画のどの部分が自分にとってハズレなのか、ということをあれこれ考えることが、ハズレをより良い経験とする行為ではないでしょうか。

また、自分にとってはハズレであっても、他の人にとってみたら、どこかに心揺さぶられ、感動を覚え、ひょっとしたら人生の針路を決定づける一本だという可能性もあります。

自分にとってハズレだったという一点で、その映画の内容や価値を独断的に判断し、「この映画はゴミだ、クズだ」とけなすよりは、その作品のどこがハズレだと感じたのかを自分なりに検証することは、それなりに意味のあることではないでしょうか。だから、そのハズレの作品を、頭ごなしにけちょんけちょんにいうことは控えますが。

と言いつつ、以前あるドラえもんの映画を観たとき、あまりにも設定やキャラクターの把握が雑なので、ツイッターでけちょんけちょんに言って、このブログにも掲載していますが。。。しかも、その記事がアクセス数では割と上位に来ています。。。

それでは、今月のまとめです。

続きを読む

ひどく手遅れだったのかもしれないが/『トト・ザ・ヒーロー』

ひどく手遅れだったのかもしれないが/『トト・ザ・ヒーロー』:目次

  • 自分で自分の人生に評価を下してはいけない
  • 誰とも思い出を分かち合うことができなかったトマ
  • 悲しみを抱いているからこそ
  • ひどく手遅れだったのかもしれないが
  • 映画の概要・受賞歴など
  • 参考リンク

自分で自分の人生に評価を下してはいけない

映画『トト・ザ・ヒーロー』は、自分で自分の人生に評価を下してはいけないし、自分にとっては何気ないことでも、他人から見ればそれはかけがえのない幸福なのかもしれないことである、ということをわたしたちに突きつける物語だと言えるだろう。

この物語の主人公トマは、老人ホームで孤独に暮らしていた。あるとき、自分の生涯を振り返る。自分の人生には幸せなことなど何ひとつなかった、と。それというのも、トマが生まれた産院が火事に遭い、そのときの混乱で向かいのカント家のアルフレッドと取り違えられてしまったからだと、トマ自身は信じているからだ。

そのためにトマの本当の人生や幸福はアルフレッドに奪われてしまった。アルフレッドのせいで、自分の人生は孤独で悲惨な人生になってしまった。そんな恨みを抱いて人生を送ってきたトマは、アルフレッドを殺して復讐を果たすことを決意する…...というストーリー。

わたしたちの目から見ると、トマの人生が愚かで惨めな人生に見える。トマ自身も子どもの頃から老人になるまでずっと、自身の人生を愚かで惨めな人生だと考えていた。でも、物語の最後にトマと同じく老人になったアルフレッドから見たトマの人生に触れたとき、トマはおそらくはそれまでの自分の人生が一変して、幸福で光り輝いたものに見えたに違いない。なぜなら、トマが人生の最後に下したある大きな決断が、それを物語っているからだ。
Merry Go Round


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

続きを読む

孤独なふたりでしか成り立ち得ない愛/『レオン 完全版』

孤独なふたりでしか成り立ち得ない愛/『レオン 完全版』:目次

  • 孤独なふたり
  • このふたりでしか成り立ち得ない種類の愛情
  • 「根が地面についてない」
  • ようやく地面に根を下ろす
  • 映画の概要・受賞歴など
  • 参考リンク

孤独なふたり

映画『レオン 完全版』は、多重奏のような愛情を描いた映画と言えるだろう。

多重奏のような愛情とは、どのような愛なのだろうか。この映画には、殺し屋のレオンと家族を亡くした少女マチルダとの間に恋愛感情だけでなく、親子愛や兄弟愛、同志愛に師弟愛といったさまざまな種類の愛情があふれる。レオンとマチルダはともに孤独な者同士だ。その孤独なふたりは、このふたりだけでしか成り立ち得ない愛情で結びつけられる。

ニューヨークに住む殺し屋のレオンには家族がいない。妻や恋人といった愛する者も、兄弟も親しい友人もいない。そんなレオンの唯一の家族と言えるような存在は、ひと鉢の観葉植物だけだった。レオンは観葉植物に水をやり、陽に当てるために出窓に出す。レオンは大都会の片隅で殺し屋を家業としつつ、ひとり孤独に観葉植物だけを愛おしく世話していた。

12歳の少女マチルダの父親は麻薬密売組織の一員。大物というわけではなく、下っ端のチンピラ的な存在である。そんな父親から、マチルダは日常的に暴力をともなう虐待を受けている。マチルダは義理の母親からは無関心に放っておかれ、姉からもひどい扱いを受けていた。そんなマチルダが唯一心を開いていたのは4歳の幼い弟だけだった。

ある日、マチルダの父親が密売用の麻薬を横領したことを見抜いたスタンスフィールドが、部下たちを率いてマチルダの家にやってくる。父親が横領した麻薬のありかを探し出すため、家族を次々に射殺してゆく。唯一心を開いていた4歳の弟も流れ弾に当たって死んでしまった。マチルダは愛する弟を失い、天涯孤独になってしまう……。

この物語は、隣同士の部屋の住人だったレオンとマチルダが出会ったことから、マチルダの弟の復讐のため、ふたりは突き進んでゆく……、というストーリーだ。
Bullet

※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

続きを読む