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誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

理想郷までの道のりは遠いけど/『ドラえもん のび太の日本誕生』

家出からはじまる物語

また、ドラえもん映画で恐縮です。

ドラえもん 新・のび太の日本誕生』の公開日と重なりましたが、この記事は1989年春に公開された『ドラえもん のび太の日本誕生』についての記事です。

『新・のび太の日本誕生』の公開日ということをことさらに意識したわけではない。たまたま最近『のび太の日本誕生』を観たので、『新』の方の公開日にあわせてupしようと思い立ったわけです。


ドラえもん のび太の日本誕生』の公開当時(1989年)、日本はバブル真っ只中。土地をめぐる皮肉が、物語序盤の推進力となる。

家出を決意したのび太。家出をしようとも現代の日本では家出のできる場所はどこにもない。いつもの空き地に行けば、地主が不動産屋を連れてやってきてのび太を追い出してしまうし、裏山に行けば巨大な重機がのび太のキャンピングカプセルをとり壊そうとする。

折しも、のび太だけでなくドラえもんをはじめとするいつものメンバーたちも家出を決意する。けれどもやはり、現代の日本には自由に家出できる土地などどこにも残されてはいなかった。土地は必ずどこかの所有地になっていて、家出をしようとも、家出すらできない現実のぶつかってしまう。

そこで、のび太たちは7万年前の日本なら人間は誰も住んでいない思い立つ。そこに自分たちの理想郷をつくるのだ。親からも先生からも干渉されない、自分たちだけの理想郷だ。のび太たちはさっそくタイムマシンに乗って、時空を超えた史上最大の家出に出発する。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

7万年前の日本に自分たちの理想郷をつくる

のび太たちの目論見通り、7万年前の日本は他に人間は誰も住んでいない広大な土地が広がっていた。ドラえもんたちは自分たちの理想郷づくりに着手するが、のび太スネ夫、それにジャイアンは、自分の土地をできるだけ広く分割し、所有しようと競争をはじめる。

この場面は、人間たちが土地を分割し、土地をめぐって争うことへの皮肉だろう。それは表層的には当時の日本のバブル経済が生み出した、土地投機への皮肉だ。しかし、土地を分割して争うことがもっと大規模になると、国境線を引き、それをめぐる争いも生み出すことにつながる。

所有も分割もない世界。もちろん、それはとてつもない理想だが、所有や分割が競争や紛争の種をまくことも厳然とした現実である。そして国境線をめぐる争いも。のび太たちが土地の分割と所有を争ったこの小さな場面は、そういった現実の反映と皮肉ではないだろうか。


物語の最後では、ドラえもんたちは中国大陸にいたヒカリ族の人々を日本に連れてきて、ここであたらしい村をつくってくださいと勧める。そしてのび太は、物語中で出会ったヒカリ族の少年ククルが自分の遠い昔の先祖かも、ということに思い当たる。

のび太たちは7万年前の日本に自分たちの理想郷をつくるべく、力を合わせて住居や畑やペットまでつくり出した。そんな7万年前の日本には、今やククルたちが住むことになった。のび太たちの夢見た理想郷は、ククルたちの手に託された。ククルたちは新しい土地で、自分たちの新しい村づくりに一歩を踏み出す。

7万年前の世界には国境はなく、人々が自由にあちこちへ行き来できた。日本人の祖先も、中国大陸をはじめ、ユーラシア大陸の北方や南方の島々から渡来して、混血を繰り返したとされている。

我々は現在、海に囲まれた国土に住み、日本の国籍を与えられ、日本人として生きてはいるが、そもそも日本や日本人という概念が、人間にとって後天的なものだということがわかる(もちろん、だからと言ってそれを軽視はしないが)。

そんな祖先の子孫にあたる我々は……、ということに思いをはせると、7万年前に夢見た理想郷(とてつもない遠大な理想だ)を実現するには、まだまだほど遠いことを思い知らされる。

時間犯罪者ギガゾンビとの戦い

ドラえもんたちの前に立ちはだかる敵は、時間犯罪者ギガゾンビ。その手先のツチダマは土偶の姿をしている。このツチダマがクラヤミ族という野蛮な連中を従え、ヒカリ族の人々を強制的に連れ去り、暴力的な抑圧をもってギガゾンビの野望を果たそうとしている。

このツチダマ、単なる土の人形だと思われていたものが、実は不思議な、そして邪悪な力を持つ存在であり、手強い敵だということが示される。

ドラえもんは一度、このツチダマを粉々に破壊する。けれども、ドラえもんたちが立ち去ったあと、粉々になった破片がひっそりと元の姿へと瞬時に戻ってしまうのだ。そしてひそやかに、大ボスであるギガゾンビへとドラえもんの存在を知らせるため、空を高速スピードで飛んで行く。この場面が敵の恐ろしさを際立たせる。


ドラえもんの映画に出てくる敵役はたいてい、人間への警鐘というかたちをとる。

宇宙戦争では、大統領をクーデターで追い出して権力を握ろうとする反乱軍が出てくるが、これは人間の歴史の反映だ。民主的に選ばれたリーダーの座を暴力で奪い取ってしまうことはけっきょく許されないことを示している。また雲の王国では、天上人が大雨によって地球を洗い流そうとするが、これは人間のもたらした環境破壊への警告である。

では、この日本誕生において、敵役のギガゾンビは何を人間に警告しようとしているのだろう。それは時間の支配、つまるところ歴史の改ざんへの批判であるのかもしれない。

ツチダマを手先として操るギガゾンビ、タイムパトロールからもひとまず逃れ、ドラえもんたちを窮地に追い詰める恐ろしい敵である。このギガゾンビ、実は未来人であり、7万年前の世界へタイムマシンでさかのぼって世界を支配しようと、そして自分の都合の良い世界に歴史をつくり直そうと目論む時間犯罪者だ。

過去の歴史を自分に都合の良いように解釈し直す、あるいは書き換えることを目論む人々の存在は、古今東西の歴史を振り返っても枚挙にいとまがない。タイムマシンなど持っていなくても、過去や歴史を改ざんすることはたやすくできてしまうことがある。時間犯罪者の存在は、歴史の改ざんへの警告なのだと言えるのかもしれない。

余計なツッコミを入れておくと

ひとつ突っ込んでおくと、『ドラえもん のび太の日本誕生』では、ギガゾンビが歴史をさかのぼって自分の都合の良い世界をつくろうとしたけれども、ある意味ではドラえもんたちも時間犯罪者まがいの行為をしていると言えなくもない。

それは7万年前の日本にさかのぼって、自分たちの理想郷を作ろうとしたし、ペガやドラコやグリといった架空の生物たちを生み出したし、どこでもドアを使って中国大陸にいたヒカリ族の人たちを日本に連れてきて村をつくってくださいと促した。一歩間違えると、歴史の改ざんまがいの行為だ。

タイムパトロールも架空の動物はさすがに引き取って未来へと連れて行くし、ギガゾンビのつくった秘密基地を跡形もなく破壊するが、ドラえもんのび太の行為をたしなめたり、注意する描写は見られない。そんな行為が時間犯罪に問われないのは、のび太たちに世界を征服しよう、都合よく支配しようという意思がないからだろうか。


まあ、『ドラえもん のび太の日本誕生』は、子ども向けの娯楽作だから、7万円前の世界に自分たちの理想郷をつくろうという子どもの夢の詰まった物語として、そして時空を超えた友情物語として、時間を忘れて物語の世界にどっぷりと浸かって純粋に楽しめる作品だ。

しかし、この映画についてじっくりと考えると、けっこう深いメッセージが隠れているのかもしれないと思うのは穿ち過ぎだろうか。また、『新・のび太の日本誕生』も観てみよう。

参考

1)映画ドラえもんオフィシャルサイト/『ドラえもん のび太の日本誕生』
http://www.dora-movie.com/film_history/history_10.html

2)Yahoo!映画/『ドラえもん のび太の日本誕生』
movies.yahoo.co.jp

3)映画.com/『ドラえもん のび太の日本誕生』
eiga.com

4)映画ドラえもんオフィシャルサイト/『ドラえもん 新・のび太の日本誕生』
doraeiga.com


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