誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

予言はどこに行き着くのか/『スーパーチューズデー 正義を売った日』

どこかで見たことのあるような陰謀や駆け引き

スーパーチューズデー 正義を売った日』は、アメリカ大統領選挙民主党予備選挙を舞台とした作品。大統領選挙への立候補を目指す州知事の選挙キャンペーンチームで働く主人公が、ふとしたきっかけで陰謀や駆け引きに巻き込まれていくストーリー。

今年はアメリカ大統領選挙の年で、すでに民主党と共和党の予備選挙や党員集会が全米で行われている。ニュースでたびたび話題にもなっている。特異な候補者のおかげで、注目を浴びている選挙戦ではある。そこで、この作品『スーパーチューズデー 正義を売った日』も、大統領選挙を扱った作品として名前が挙がってたので視聴してみた。

この作品、実際の民主党予備選挙の体験をもとにした戯曲をジョージ・クルーニーが映画化したという。その思いや意気込みは理解できる。この作品では駆け引きや陰謀が絡み合いながら物語は進むが、それらはどこかの映画で観たことのあるような既視感が拭いきれないのが、やや残念なところではある。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

崇高な理念は敗北するしかないのか

作品に登場するのは、大統領候補への指名獲得を目指す政治家、その選挙キャンペーンを支えるスタッフ、ライバル候補の選挙スタッフ、見返りの大きさを測りながらどちら側につこうか様子をうかがう政治家、スクープを狙う新聞記者……。

登場人物たちはみな、ことどこく表向きの正義や理想を掲げてはいるが、その裏側ではどす黒い欲望を抱え、陰謀や駆け引きをめぐらせ、他人を蹴落とそう、他人を出し抜こうとしている。いやあ、権力やそのおこぼれを本気で手に入れようとする人間ってここまでどす黒くなれるものなんですね、という映画だ。

さて、この映画でひとつ印象に残ったのが、選挙参謀のポールが忠誠心について語っている場面だ。政治の世界(正確には政治家の参謀の世界か)では、何よりも忠誠心が必要だ、自分が支えようとしている政治家への忠誠心がなくなったら、そこでおしまいだ、と主人公に語りかけるが、その後あっさりとポール自身が裏切られてしまう。

おそらくポールは忠誠心を自分の崇高な信念として、長年にわたってさまざまな政治家の政治参謀をしてきたのだろう。しかし、自分の支えている政治家によってクビになってしまう。政治家への忠誠心という崇高な信念でさえも、駆け引きと陰謀の前ではあっさりと粉砕されてしまうのだ。

新しい職場が見つかったよと主人公に告げ、立ち去ってゆくポールの後ろ姿が、崇高な信念の敗北を象徴するかのように寂しく見える。

政治家の語る正義や理想を警戒せよ

政治家たちがどんなに崇高な正義や輝かしい理想を語っていたとしても、そのすべての裏側に、人間のどす黒い欲望や駆け引きが渦巻いているのではないか、そしてそれはいつまでも変わることなく繰り返されるのではないか。『スーパーチューズデー 正義を売った日』は、観たあとにそんな思いを抱かせる作品となっている。

日本語タイトルはややダサいが、この作品の原題は「The Ides of March」。訳すると「3月15日を警戒せよ」という意味らしい。このフレーズはカエサルが暗殺の日と予言されたことからきたという。ちなみに、カエサルは予言どおり、3月15日に暗殺されている。

このタイトルは政治家の語る正義や理想を警戒せよ、みたいなことを含むのだろう。「正義を打った日」という、下手に説明的な日本語のサブタイトルをつけなくても良かったのではないか。

本作の中での予備選挙やその後の大統領選挙の本選挙をはじめ、主人公やその周囲の人物たちとの関係性はけっきょくどうなったのか明確にはされていない。作品中で予言は予言のままで、予言の行き着く先は観る者の想像に任されている。

アメリカでは大統領候補を選ぶ予備選挙や党員集会が繰り広げられている。秋には本選挙だ。予言はどこに行き着くのだろうか。

参考

1)Yahoo!映画/『スーパーチューズデー 正義を売った日』
movies.yahoo.co.jp


2)映画.com/『スーパーチューズデー 正義を売った日』
eiga.com



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