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誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

一瞬しか訪れないからこその幸福と愛情/『きみに読む物語』

物語の読み聞かせ

映画『きみに読む物語』は、純愛を貫いたひと組のカップルの生涯を描く。恋愛ものでそれも純愛の物語なので、設定やストーリー展開も定型的ではある。しかし、他の凡百の恋愛ものや純愛ものと一線を画すのが、認知症の老婦人に高齢の男性が読み聞かせする物語を軸に話が展開するところだ。

認知症のために療養施設にいる老婦人のもとに、ある物語を読み聞かせるために高齢の男性が通ってくる。高齢の男性は老婦人のために一冊のノートブックを開き、物語を語りはじめる。高齢の男性が語るのは以下のような話だ。

家族とひと夏を過ごすため、南部の田舎町へとやってきたアリー。夏祭りの夜、アリーは地元の製材所で働くノアから熱烈なアプローチを受ける。やがてふたりは恋人同士になり、夏の田舎町でふたりは熱烈に愛し合う。しかし、アリーは名家の娘で家柄も教養もある。一方のノアは、家柄も教養もない田舎の製材所で働く青年だ。そんな身分違いの恋が簡単に成就するわけもなく、ふたりは引き離されてしまう。夏の終わりとともに。ふたりの恋は終わりを迎える…...。

映画『きみに読む物語』は、愛するもの同士の永遠の結びつきを描く。人間は年齢を重ねて老いることは避けられないし、認知症にかかって何もかもを忘れてしまうことだってある。けれども、若い頃に燃えるように抱いた純粋な愛情は年老いてもなお、どんなかたちであっても残り続ける、ある意味では永遠に。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

若い頃に語ってくれた夢を実現した男

本作を貫くのは、お嬢さまのアリーと田舎の青年ノアの恋愛劇だ。燃えるようなひと夏の恋に落ちたふたりは引き離されてしまったあと、それぞれ別々の人生を歩んでゆく。アリーは大学に通い、ノアは戦争に従軍する。やがてアリーは、ノアのことを心のどこかで思いながらも、金持ちのロンと婚約する。それは誰もがうらやむ理想的なカップルの婚約だった。ところが偶然にもアリーはノアのその後を知り、あの田舎町に会いに行く。その後の展開はおおかたの予想どおり、アリーはロンとの婚約を破棄してノアと結びつく。

アリーはなぜ、金持ちでいい男のロンではなく、ノアと再び結びつくのか?

それは、ノアが若い頃に語った夢を自らの手で実現したから、ということが大きいかもしれない。

田舎町でのひと夏の恋を楽しんでいるころ、ノアはアリーに将来の夢を語る。それは、真夜中に忍び込んだ廃屋での出来事だ。ノアの夢はいつかこの大きな廃屋を買い取って、自分の手で改築して、農園を作るというもの。若い頃に恋人に向けて語る他愛のない甘い夢かと思いきや、ノアは戦争に従軍したあとに故郷の田舎町へと戻り、父親の手助けを得ながらもその廃屋を買い取り、自分の手で見事に改築してしまう。常軌を逸したかのように、廃屋の改築に没頭するのだ。

その結果、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどにボロボロだった廃屋は、湖畔に建つ見事な邸宅へと変貌を遂げる。その邸宅は、たくさんの金持ちが多額の金を出してでも買いたいと望むくらいの見事なものだった。

自分の手で、若い頃に語った夢を実現させた男、それがノアだ。「家柄が良くて金持ちで性格もいい男」のロンよりも、「自分の手で若い頃に語ってくれた夢を実現した男」のノアに、アリーの心が傾くのもわからなくはない。

愛情はどんなかたちでも残る、ある意味では永遠に

物語の後半で、高齢の男性と老婦人の関係、そしてなぜ、高齢の男性が物語を読み聞かせているのか、だんだん判明してくる。これは、老婦人に「失われた記憶」を思い出させるための行為なのだということが。

はじめ、わたしたちは高齢の男性が老婦人に読み聞かせていたアリーとノアの物語は、単なるフィクションだと思わされる。話が進むにつれ、老婦人も高齢の男性が語る物語の続きを聞きたいと願う。本の中に登場する若いふたりの恋愛の行方が気になるのだ。観客と同じように。

高齢の男性が物語のすべてを読み終わると、老婦人は「失われた記憶」を思い出す。同時に、物語を読み聞かせてくれた高齢の男性がいったい誰なのかも。老婦人は記憶を思い出すことで、幸福感や愛情を取り戻す。けれども、その記憶はまた数分で失われてしまう。認知症のせいで、取り戻した記憶もすぐに失ってしまうのだ。目の前にいる高齢の男性がいったい誰なのかさえも。そんな老婦人の姿を見て、高齢の男性は泣き崩れる。自分の営みが無為に帰してしまった瞬間だからだ。

本作は、失われゆく記憶、それを取り戻す一瞬、愛するもの同士の永遠の結びつきを描く。そして認知症の老婦人が昔の記憶を取り戻す瞬間が訪れる。けれども、記憶を取り戻すのはわずかな時間でしかない。幸福と愛情は一瞬しか訪れないからこそ、高齢の男性の語る物語は永遠に美しく、かけがえのないものとなるのだろう。

ラストシーンはひとつのファンタジーだが、こんなふうに愛情に満ちた人生の最期を迎えることができれば、その人生はたとえ認知症で多くの記憶を失っていたとしても、とても幸福であったのではないか。若い頃に燃えるように抱いた純粋な愛情は年老いてもなお、そしてある意味では永遠に、どんなかたちであっても残り続ける、そんなことを感じさせる一本である。


余談だが、金持ちのロンがアリーにプロポーズする場面に、キャブ・キャロウェイっぽい人物(もちろん本人ではなく役者だが)が登場する。キャロウェイっぽい人物は、バンドで軽妙に指揮棒を降り、スキャット混じりの歌う。たたずまいや振る舞いがキャロウェイを彷彿とさせる。そんなキャロウェイは、ロンによるアリーへの突然のプロポーズに、機転を利かせてバンドで祝福する。キャブ・キャロウェイ好きとしては、そんな風にキャロウェイも歌ってたんだなと想像することができる楽しい場面だった。

参考

1)Yahoo!映画/『きみに読む物語
http://movies.yahoo.co.jp/movie/320424/

2)映画.com/『きみに読む物語
http://eiga.com/movie/1570/

3)Filmarks/『きみに読む物語
https://filmarks.com/detail/20737

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