誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

うぉぉぉ!!! ウ◯コまみれのトイレきたねぇぇぇ!!!/『トレインスポッティング』

断ち切ることを描いた映画

映画『トレインスポッティング』は、ヘロイン中毒の青年マーク・レントンが、クスリを立って新しい人生を切り開こうと奮闘する姿を描く物語。もちろん、薬物を断つのは一筋縄ではいかないので、そこに苦闘があり葛藤がある。

ドラッグ漬けのボロボロの人生から抜け出すためには、ドラッグそのものを立つことも大事だが、それと同じかあるいはそれ以上に、悪い”友達”との縁を切ることの大事さも、この映画は描いている。

もちろん、現実ではドラッグを断ち切ることも、人間関係を断ち切ることも簡単ではないし、映画の中でも一筋縄ではいかない。けれども、それらの悪いものを断ち切ったところにしか、新しい人生は切り開くことはできないとの姿勢を、この映画では明確にしている。

この映画の最後には、ドラッグや悪い”友達”を断ち切り、新しい人生に向かって光の中を歩いて行くレントンの姿が描き出される。わたしたちはそのような、何もかも悪いものを断ち切ったレントンの姿を見て、すっきりとしたすがすがしさを覚えるのだ。ドラッグや悪い”友達”に限らず、わたしたちをとらえる悪癖みたいなものを、今度は自分も断ち切ってみよう。そんな気持ちさえ抱くのだ。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

スコットランドで一番汚いトイレ」

冒頭、「スコットランドで一番汚いトイレ」のシーンがある。うぉぉぉ!!! トイレきたねぇぇぇ!!! と、そのあまりの汚さに思わず目を背けたくなるほどのトイレだ。壁も床も、そして個室や大便器に至るまで、とにかく目に見える範囲には茶色や灰色をした何かの飛沫跡が汚くこびりついている。

レントンは下剤のせいで急に強烈な便意をもよおした。そんなレントンがあわてて駆け込んだトイレが「スコットランドで一番汚いトイレ」だったのだ。ところがレントンは、便器の水の中に下剤を落としてしまう。ドラッグを断つための下剤。それを取り戻すため、レントンは意を決して便器の水の中へと腕を入れてしまう。そこには灰色と茶色が混ざり合ったような、見るからに汚い水が溜まっている。

ところが、水の中に手を入れたレントンは腕だけではなく、肩、そして頭や胴体と、次々に便器の中に吸い込まれてしまう。ここは非現実的な描写である。けれども、この映画全体を示唆する重要な場面なのだ。

現実を超えた非現実な出来事に、わたしたちは身の縮むような思いを抱く。そんな汚いトイレに吸い込まれてしまってどうなるんだと、わたしたちはハラハラと展開を見守ることになる。しかし、わたしたちの心配をよそに、どんどんレントンの全身は便器の中に吸い込まれてしまう。排泄物や吐瀉物にまみれたような便器に体ごと吸い込まれる光景に、人によっては顔をそむけたくなり、吐き気さえもよおすかもしれない。

そのような便器の中の汚い水に体を沈めるのは、主人公のレントンがそれと同じような最低の生活を送っていることを示しているのだろう。目を背けたくなり、吐き気さえもよおすような人生。実際にそれまでのレントンは悪い仲間たちとともに薬物にまみれ、最低の生活を送っていた。そんな人生に、誰もが陥りたくはない。トイレの汚さは、そういったことを表しているのではないだろうか。

あの白い光に向かって

ところが、レントンが便器に沈んだ先は、とてもきれいな水で満たされていた。排水管を通って、深い海に出てしまったかのような水。レントンはそんな水の中でゆらゆらと漂い、自分がやってきた上の方を見上げる。そこには、太陽のような白くて丸い光が輝いていた。青い水越しに見える太陽のような光。レントンが漂いながら青い水の上に見た輝く光は、まるで出口の穴のようだ。そこから光あふれる外へと抜け出したいというレントンの願望のような光。レントンは、その光を目指して浮かび上がる。

レントンは便器から体を出し、再びあの汚いトイレに全身ずぶ濡れのレントンは戻ってくる。清冽な水の中にいたレントンに、再び現実が突きつけられた瞬間。汚物まみれのトイレを、全身ずぶ濡れで出て行くレントン。あの水の上に見えた白く輝く光から抜け出したいと願ったように、この現実からも抜け出したいと願い、レントンは奮闘してゆく。

本作は、そんなふうにレントンがドラッグ漬けの最低の人生から抜け出そうと奮闘する姿を描き出す。このトイレと水の中の一連の場面は、その過程や結末を示唆する場面だろう。

けれども、薬物まみれの最低な現実から抜け出したいと願っても、そう簡単にはいかない。薬物を断つと決意したレントン、治療プログラムに参加するが、けっきょくは挫折して再び薬物に手を出してしまった挙句に、万引きの罪で友達のスパッドと共に逮捕されてしまう。構成まで一直線には進まない、そんなレントンの弱さと、薬物から抜け出す困難さまでをも映し出す。

執行猶予になったレントンはもう一度薬物を断つと決意するのだが、今度はプログラムを受けずに自宅で半ば軟禁状態に追い込まれる。自分の部屋に閉じ込められるようなかたちになるのだ。そこで今度は激しい禁断症状に襲われる。わけのわからない幻覚幻聴がレントンを襲うのだ。天井をはい回る赤ちゃん、わけのわからないクイズ番組を映し出すテレビ……。

それでも、あの青い水の中で見た白い光を目指すように、レントンは新しい生活をはじめる。まさに、トイレに沈んだ時に見た、水面の上でゆらゆらと揺れる白い光を目指して、レントンは泳ぎはじめた。うまく立ち直って人生が好転してほしい。わたしたちはレントンが立ち直るよう、祈るような気持ちで展開を見守ることになる。

人生をぶち壊そうとする”友達"

そんな禁断症状からようやく抜け出し、レントンは人生を新しくやり直そうとスコットランドを離れ、ロンドンで不動産会社に就職する。ロンドンならば、スコットランドの悪い友達とも手を切ることができるし、薬物も断つことができると考えたからだ。

しかし、物事は簡単に好転するわけではない。

ロンドンでの新しい生活は、ひとまずそんなレントンの理想どおりに進む。薬物にも手を出さずに、不動産会社の真面目な社員として仕事に打ち込む。生活も好転し、ようやく新しい人生をつかんだように見えたそのとき、スコットランド時代の悪友たちが転がり込んでしまうのだ。

スコットランドで一緒に薬物をやっていた仲間たち。強盗事件で指名手配を受けたベグビー、次いでポン引きとなったシック・ボーイ。悪友たちは、レントンの部屋から一歩も外に出ることはなく、レントンに買い物から何かまで用事を言いつける始末。なにしろ友達じゃないか、友達が困っているところのを助けるのは当たり前だろ。そんな感じで、悪友たちはレントンにつけ込む。

もし、こんな悪友とこれ以上一緒にいたら、また悪い道に引きずり込まれてしまうだろう。そんな危機感をレントンは抱く。こんな連中、早いところ追い出してしまうか、警察に突き出してしまえばいいのにと、わたしたちも悪友たちに苛立ちを募らせる。けれども、レントンは友達に面と向かって部屋から出て行けと言い出せないでいた。なぜなら、レントンにとってふたりは故郷にいたときから付き合っていた”友達”だ。友達だから、助けるのは当たり前だろ。

レントンはストレスとイライラを募らせていく。そして、けっきょく二人のせいでレントンは会社をクビになってしまう。シック・ボーイたちのせいで、新しく人生をやり直そうとしていたロンドンでの生活もぶち壊されてしまったのだ。こいつらのせいで、良い方向に向かっていたレントンの人生が、また悪い方向にねじ曲げられてしまったじゃないか。レントンも、そしてわたしたちも、そんな苛立ちを抱えてしまう。

そこへ、今度は悪友のシック・ボーイが大量の薬物の闇取引で大金を手に入れることを計画する。これが成功すれば、信じられないくらいの大金が手に入ると、レントンたちに話を持ちかける。わたしたちは、レントンがなかなかスパッと悪友たちと関係を断ち切れないことにますますイライラしながら、展開を見守っていた。今度もまた、シック・ボーイのせいでレントンの人生がぶち壊されてしまうんじゃないか。そんな危機感が、わたしたちの胸を締め付ける。

”友達”との関係を断ち切って走りだす

かくして、レントンはしぶしぶながらも、スコットランドの友達を交えて薬物の闇取引に参加する。レントンは嫌々ながらも、なにしろ俺たちは友達じゃないかと言いくるめられてしまう。さらには、レントンは闇取引のためのクスリが本物であるかどうか試し打ちさせられた上に、闇取引のために自分の貯金までをも提供してしまう。

そんなレントンの姿に、わたしたちはイライラが募る。うまくいくかどうかもわからない闇取引のために、そこまで自分を犠牲にすることはないんじゃないか。あんな連中とは手を切れよ。わたしたちはレントンに向かってそう叫びたくなる場面だ。

けっきょく闇取引はうまくいき、レントンたちは1万6千ポンドもの大金を手に入れることに成功する。大いに喜び、快哉を上げるレントンたち。けれども、今度は友達のうちのひとりが酒場で他の客に絡んで暴力沙汰を起こすなど、レントンは自分の友達に心底うんざりする表情を浮かべる。こいつといたら一生が台無しになってしまう。そんな表情だ。

そして、とうとう最後にはレントンは大金を奪って友達のところから脱走することに成功する。わたしたちは、大金の入ったカバンを奪って逃げ出すレントンの姿に、強いカタルシスを覚える。ようやくレントンは、あんな連中との関係を断ち切ることができたからだ。

もはやイギリスからも遠い地にいるレントンを追うものはいない。ようやくレントンは薬物と、そして悪友との関係を絶ち切ることができ、新しい人生をはじめる。レントンは汚物まみれのトイレから抜け出すことができ、あの白い光の下で新しく歩きはじめるのだ。

”友達"と称して自分をダメにするような奴とは関係を断ち切らなきゃダメだ。そうでないと、一生をウ◯コまみれのトイレで過ごすことになるだろう。映画『トレインスポッティング』が、わたしたちにむかって叫ぶメッセージはそれだ。

トレインスポッティングが意味するところ

ところで、この映画のタイトルである『トレインスポティング』、原題も"trainspotting”だ。この"trainspotting”なる単語、どういう意味なのだろう。手元の英和辞書には、この単語自体が掲載されていなかった。そこでインターネット上で調べたが、「列車マニア」のスラングだ、みたいなことしか書いていなかった。けれど、列車や列車マニアは、本作とはあまり関係なさそうだ。

ところが、ネット上の英和辞典・和英辞典であるweblioを開くと、少し気になる部分を見つけた。”trainspotting”のアナグラムとして、”starting point”という言葉が挙げられていたのだ。この”starting point”、出発点や起点を意味する。

原作者が意図したのかどうか、わたしにはわからない。しかし、”trainspotting”が”starting point”のアナグラムだとすれば、この映画にふさわしい言葉だと言えるだろう。主人公レントンの新しい人生のはじまりが、この映画のラストシーンだからだ。もちろん、これはわたしのひとつの推測や仮説、あるいは想像に過ぎないが。

映画の概要・受賞歴など

映画『トレインスポッティング』は、1996年のイギリス映画。スコットランド出身の作家アーヴィン・ウェルシュが1993年に発表した同名の小説が原作。原作小説は現在、「90年代を代表するイギリス青春小説の傑作」として、ハヤカワ文庫から日本語訳が出版されている。

参考

1)Yahoo!映画/『トレインスポッティング
movies.yahoo.co.jp

2)映画.com/『トレインスポッティング
eiga.com

3)Filmarks/『トレインスポッティング
filmarks.com

4)ハヤカワオンライン/『トレインスポッティング』(文庫本)
www.hayakawa-online.co.jp

5)weblioTrainspotting
http://ejje.weblio.jp/content/Trainspotting


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