誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

もっと未来が見通せたら/『マジック・イン・ムーンライト』

もっと未来が見通せたら/『マジック・イン・ムーンライト』:目次

天文台でのんびりと夜空を眺めるような気持ちで

映画『マジック・イン・ムーンライト』は、天才マジシャンとインチキ霊能力者の物語。1920年代の南仏コート・ダジュールが主な舞台となっている。有名なマジシャンが自称霊能力者のインチキを見破るという定型的とも言えるような物語で、世界を揺るがすような大事件などは起こらない小粒な印象の物語。けれども、登場人物たちのかたくなな心が魔法にかけられたようにやわらかに溶けていく様子を描く。

主人公は、有名な天才マジシャンであるスタンリー・クロフォード。そしてもうひとりの主人公は自称霊能力者のソフィ・ベイカー。スタンリーがソフィのインチキを見破るために南仏の屋敷に乗り込むが、なかなかそのインチキの証拠をつかめないまま、物語は進んでゆく。

タイトルにもあるように、「月の光」と「マジック」が印象的な物語である。「月の光」とは、あるときひょんなことでスタンリーとソフィのふたりが天文台にたどり着く。この天文台はスタンリーが幼い頃に連れてこられた思い出の場所であり、この天文台からふたりは夜空の月や星を眺める。この場面が物語の中でも美しい場面であり、同時にこの物語の大きな転換点に位置する場面であろう。

もうひとつの「マジック」の方には、様々な意味が込められている。まず、この物語の主人公スタンリーは職業がマジックを披露するマジシャンである。また、この物語のヒロインであるインチキ霊能力者のソフィもまた人々の過去を透視したり、死んだ人の霊を呼び寄せたりと、マジカルなことでお金を稼いでいる。

この「マジック」には他にも意味が込められているが、とにかくそんなふたりが出会ったことで、かたくなだったふたりの心が魔法にかけられたように少しずつ変わってゆく。映画『マジック・イン・ムーンライト』は、物語が終わったあとに、マジカルな力がわたしたちの心までをも柔らかく解きほぐしたかのように感じる物語である。この物語は、真夜中の天文台でのんびりと夜空を眺めるような気持ちで観るといいのかもしれない。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

傲慢で偏屈、自信過剰のマジシャンと若さと美貌が売り物の霊能力者

主人公のスタンリー・クロフォードは、ウェイ・リング・ソーなる中国人風の名前で、これまた中国人風の出で立ちでマジックを披露するマジシャンだ。自分のマジックの腕に自信過剰とも言えるほどの自負を持っている。そんなスタンリーは、科学的論理的な思考をする人物でもある。

だから、スタンリーは霊能力や過去を透視する能力といった魔術的霊能的なことは一切信じない。傲慢で偏屈なほどに。このようにスタンリーは手品の腕はたしかなのかもしれないが、こんなおじさんが近くにいるのはちょっとなあと思ってしまうような人物である。

もうひとりの主人公であるインチキ霊能力者のソフィ・ベイカーはまだ若く、魅力的な美貌の持ち主。人の過去を透視する能力や死んだ人の霊を呼び寄せて行う降霊術を売り物に、若さと愛嬌を振りまきながら、あちこちの金持ちに取り入っては大金を得ることを繰り返していた。なるほど、こんな美貌の持ち主の若い女性なら金持ちも簡単に警戒心を解くし、つけ入られても仕方ないなあという説得力がある。

そんなソフィはコート・ダジュールに滞在しているアメリカの大金持ち一家キャトリッジ家に取り入っている。息子のブライスがソフィに惚れ込んでしまい、いつもソフィに捧げる自作の愛の歌をウクレレを弾きながら歌う始末。またキャトリッジ家の母親もまたソフィの降霊術に魅了され、ソフィの母親がつくるという心霊研究の施設や財団に大金を注ぎ込もうとしていた。このように、キャトリッジ一家はソフィ母娘にすっかりつけ入られている始末。

そこで、スタンリーの唯一の親友であるハワードは、インチキ霊能力者ソフィーのインチキを見破って欲しいとスタンリーに頼んだのだった。そんなソフィのインチキなどすぐに見破ることができると自信にあふれていたスタンリーは、さっそく一家の滞在しているコート・ダジュールの屋敷に乗り込んでいく。

ところが、自信満々のスタンリーは初対面のソフィに自分の過去に関係することを示唆されて動揺してしまう。自分と親しい者しか知り得ないことを初対面のソフィが見抜いたからだ。なぜ、ソフィが自分の過去に関係することを知っていたのか、そのトリックが解けないまま時間が過ぎる。スタンリーの自信はぐらつき、揺らいでしまう。それがまるでソフィのかけたマジックのように。けれども、そんな動揺を隠そうとスタンリーはますます傲慢になり、有名なマジシャンとしての威厳みたいなものを保とうとしている姿が滑稽である。

そんなスタンリーが、ソフィの行う降霊術のインチキを見破ろうとする場面がある。キャトリッジ家が一堂に会した部屋で、ソフィが霊を呼び寄せるのだ。果たしてソフィの呼びかけのとおり霊が呼び寄せられ、キャトリッジ家の母親の呼びかけに答えていく。けれども、やはりスタンリーは降霊術のトリックが見破ることはできなかった。果たして、ソフィの能力は本物なのだろうか。いや、そんなことはないとますますかたくなになってゆくスタンリー。

このようにスタンリーは傲慢で偏屈なおじさんであるが、ソフィと過ごすうちに傲慢で偏屈なところが、まるで魔法によって少しずつ柔らかく溶けていくように変わっていくのがとても滑稽であるし、心温まるところでもある。そのスタンリーの変化とそれを取り繕う姿が、この物語の最大の見所と言えるだろう。

もっと未来が見通せたら

この物語は1920年代が舞台だという。クラシックな車が出てくること以外は、あまり1920年代だという感じは得られなかった。もちろん、恋愛は時代を超えて普遍的なものだから、その普遍的な物語を描くために、この物語の舞台は1920年代だということをことさらに強調する必要もなかったのだろう。

けれども、1920年代の南仏が舞台であるという必然性や説得力みたいなものがもう少しあってもよかったかもしれない。

1920年代といえば先の第一次世界大戦が終わり、アメリカ発の世界恐慌へと突き進む途上にある。このソフィの選択がこのあとどうなったかを見せることも可能であったと思う。たとえば、キャトリッジ家はアメリカに住む大金持ちであったが、その後の大恐慌に巻き込まれてどうなったのか。あるいは、スタンリーはマジシャンとして活躍するエンターテイナーであるが、やはり大恐慌に遭遇する中でその運命はどう変化したかが、若干気にはなる。

アメリカのお金持ち一家、自称霊能力者の母娘、そして有名なマジシャンのその後の人生はどうなっていたのだろうか。大恐慌を乗り切り、さらなる栄華を極めたのか、それとも没落していったのか。ソフィの選択が正しかったのか、間違っていたのか。その意味ではもっと未来が見通せたら、もっと深みが出た物語になったのかもしれない。

映画の概要・受賞歴など

映画『マジック・イン・ムーンライト』は、2014年制作のウディ・アレン監督作品。原題は”Magic in the Moonlight”。

参考リンク

1)Yahoo!映画/『マジック・イン・ムーンライト
movies.yahoo.co.jp

2)映画.com/『マジック・イン・ムーンライト
eiga.com

3)Filmarks/『マジック・イン・ムーンライト
filmarks.com

4)『マジック・イン・ムーンライト』/公式ホームページ
magicinmoonlight.jp


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