わたしたちもまた少しずつしか伝えられない/『潜水服は蝶の夢を見る』
わたしたちもまた少しずつしか伝えられない/『潜水服は蝶の夢を見る』:目次
- 伝えるということを問う物語
- わたしたちもまた少しずつしか伝えられない
- 蛇足的な想像
- 映画の概要・受賞歴など
- 参考リンク
伝えるということを問う物語
映画『潜水服は蝶の夢を見る』。潜水服を着たかのような不自由な状況に置かれてしまっても、記憶と想像力がある限り、人間の心はどこまでも自由に蝶のように羽ばたくことができる。同時に、人はどんなに悲惨な状況に陥っても自分の感情や思いを言葉にして伝えることができ、それが周囲の人々の心を響かせることができる。この物語が伝えたいメッセージは、こう言い表すことができるだろう。
この物語の主人公はファッション誌『ELLE』の編集長であるジャン=ドミニク・ボビー。彼は息子とともに新車のドライブをしている最中に脳溢血に襲われてしまう。3週間の昏睡状態から目覚めたあと、なんとか一命をとりとめたものの、頭から足の先までの全身に麻痺が残ってしまった。
そんなジャン=ドミニク・ボビーに残されたのは意識と聴覚、そして左目を動かすことだけだった。そんな彼は言語聴覚士の指導により、まばたきのみで言葉を伝える方法を覚えてゆく。イエスならまばたき1回、ノーならまばたき2回というふうに。そこからさらに言葉を伝える方法まで獲得してゆき……という物語だ。
この映画には感動とはまた違う驚きがある。他人と意志が伝達できないかのように見える状態の障害者にも想像力や感情があり、恐ろしく制限され、時間のかかる方法ではあるが、その想像力や気持ちを他人に伝えることができるのだという驚きと発見がある。伝えるということが、人間にとってどういうものであるか。わたしたちはそんな疑問を突きつけられるのだ。
※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。
雪には人間を切実にさせる力があるのかもしれないの巻/『誤読と曲解の映画日記』2018年1月のまとめ
雪には人間を切実にさせる力があるのかもしれないの巻/『誤読と曲解の映画日記』2018年1月のまとめ:目次
- 雪の中を追いかけたり逃げ出したり
- 『誤読と曲解の映画日記』今月のまとめ
- 『誤読と曲解の読書日記』今月のまとめ
- 管理人からのお知らせ/ほしい物リストから本が届きました
雪の中を追いかけたり逃げ出したり
この冬はとても寒いですねえ。わたしが住むのは九州の南の方ですが、それでもこの冬は今まで経験したことのない寒さに見舞われています。とにかく寒いし冷たい。春になるのが待ち遠しくてたまりません。
しかし、わたしの住んでいるあたりは雪がめったに降ることはないので、一面の冬景色を見回すという経験がないのです。見渡す限り雪の広がる風景とは、いったいどういう景色なのでしょうか。だから、わたしはテレビ番組や映画でしか、雪景色というものを見たことがないのです。
雪景色が印象的な映画といって、ぱっと思いつくのは『ファーゴ』や『八甲田山』あたりですかねえ。どちらも人がバタバタと死んでいく映画ですが。あとは『網走番外地』でしょうか。『網走番外地』は雪の中を逃げてゆく話ですが、いやあ、あれだけの雪の中、自分だったら途中で凍え死んでしまうなあと思った記憶があります。
これらの雪に関する映画について考えると、雪には人間を切実にさせる力があるのかもしれないですね。
それでは、今月のまとめをどうぞ。
沈黙と静寂の中にあふれる濃密な愛情/『キャロル』
沈黙と静寂の中にあふれる濃密な愛情/『キャロル』:目次
- ちょっと怖いなあと思ってしまうくらいの濃密な恋愛
- 静寂と沈黙の中の愛情
- キャロルの強い引力
- 映画の概要・受賞歴など
- 参考リンク
ちょっと怖いなあと思ってしまうくらいの濃密な恋愛
映画『キャロル』は、女性同士の濃密な愛を描いた物語。物語は1950年代のニューヨークが舞台。デパートの店員テレーズとお客としてやってきたキャロルとのあいだの女性同士の恋愛を描く。静謐と沈黙が世界を美しく支配する中で、ふたりの女性の濃密な愛情がそこかしこに満ちているのを、わたしたちは感じることができる。
クリスマス目前のデパートのおもちゃ売り場で働くテレーズの前に現れたのは、幼い娘へのクリスマスプレゼントを選びにやってきたキャロルだった。キャロルが売り場に置き忘れた手袋を、テレーズがキャロルの自宅へと届けたことから、ふたりは少しずつ親密になってゆく……、というストーリーである。
映画『キャロル』に描かれた女性同士の恋愛を男性のわたしが見ても、そこにある濃密な愛情はうらやましいほどに「いいなあ」と思えるものがあり、そして同時に、ここまでもう密だと「ちょっと怖いなあ」と感じるものもある。
「ちょっと怖いなあ」と思うのは、ここに描かれているのが同性愛だからというわけではない。それは異性同士の恋愛にもつきものの、相手を深く愛し過ぎるときのような危うさである。あまりにも深い愛情が、むしろその関係を破綻へ向かって進ませてしまうんじゃないかという危うささえも感じさせるのである。そういった面が描かれているからこそ、この物語は普遍的な愛を描いているのだとも言えるだろう。
※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。
親切心と愛犬/『アーティスト』
親切心と愛犬/『アーティスト』:目次
- 「親切心」を描いた物語
- 「想像」の力を引き出すサイレント映画
- ペピーの親切心
- 愛犬ジャックの大活躍
- 映画の概要・受賞歴など
- 参考リンク
「親切心」を描いた物語
映画『アーティスト』は、かつて大スターだった俳優ジョージ・ヴァレンタインが階段から転がり落ちてゆくさまと、新進気鋭の女性俳優ペピー・ミラーが階段を駆け上がってゆくさまを対比的に描いてゆく。「親切心」がこの物語のひとつのテーマだろう。ジョージの親切心がペピーを人気俳優に引き上げ、ペピーもまたその親切心を忘れずに俳優としてのキャリアを積み上げてゆく。
物語の最後には「ああ、誰かに親切にすることっていいなあ」、「誰かにかけてもらった親切は忘れないようにしよう」と、思わず感じてしまうような心温まる物語となっている。
物語は1927年のハリウッドから幕を開ける。世の中はサイレント映画の絶頂期。俳優ジョージ・ヴァレンタインはサイレント映画の大スター。彼の出演する映画は、満員の観客たちから熱烈な拍手喝さいを浴び、彼はどこへ行ってもファンたちに取り囲まれ、サインをねだられる。
そんなとき、偶然にも俳優志望の若い女性ペピー・ミラーは、ファンたちに囲まれるジョージとともに写真を撮られ、たちまち新聞や雑誌で「あの娘は誰?」と騒がれてしまう。ペピーもまたジョージの大ファンで、彼を取り囲むファンのひとりだった。ペピーはジョージに再会したい一心で、映画のオーディションを受け、エキストラの座を射止める……、というストーリーだ。
※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。
2017年最後の更新。そして少々の愚痴めいたこと。/『誤読と曲解の映画日記』2017年12月のまとめ
2017年最後の更新。そして少々の愚痴めいたこと。/『誤読と曲解の映画日記』2017年12月のまとめ:目次
少々の愚痴めいたこと
『誤読と曲解の映画日記』、今年最後の更新です。
早いものでこのブログを開設してから丸2年が経とうとしています。今年は管理人が少々多忙だったため、なかなか更新できない時期もありましたが、なんとかまた1年間更新することができました。
さて、今さらですが、映画を観たときに浮かんだことを文章化するのはなかなか骨の折れる作業です。そもそもは自分用の映画の感想記録みたいなものとして、このブログを立ち上げたのですが、2年間ほど映画を観て感想を書いてという作業を繰り返して、それで文章が上手くなったかと言われると、それがやっぱり上手くなっていないんですねえ。
そういうわけで、ブログをはじめて2年経っても、なかなか文章が進まず、呻吟しながら記事を書き続けています。おそらくはこのままで続いていくのでしょう。
1年の最後に少々愚痴めいた話になりましたが、みなさま良い新年をお迎えください。