誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

自らの欲望に忠実になること/『ラブ&ポップ』

自らの欲望に忠実になること/『ラブ&ポップ』:目次

個人的な欲望に忠実な存在

本作のテーマは「自らの欲望に忠実になること」だろう。

しかし、本作に出てくるような男たちが自らの欲望に忠実になると、それらはことごとくヤバい性癖となり、同時にことごとく記号としての「女子高生」の消費に直結してしまう。

それに対して、本作に出てくる女子高生はみな個人として生きている姿が対照的に描かれている。少なくとも、記号としての女子高生の姿を演じながらも、個人的な欲望に忠実な存在と描かれるのだ。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれている場合があります。

現金と引き換えに入手できる記号

たとえば、本作には次のような男たち出てくる。

咀嚼したマスカットを要求するおじさんは、裕美たちに名前と学校名を要求する。けれども、名前は本名ではなくてもいいけど、信憑性のあるものを要求し、突飛な名前や現実性を欠く名前はダメだと告げる。あくまでも「女子高生」的な名前を要求するのだ。

あるいはレンタルビデオ店へ一緒に行って欲しいと要求する青年も、自分に「女子高生」の恋人がいると周囲に見られたいと求めている。

このように、本作に出てくるいずれの男も、記号としての「女子高生」に価値を置き、そこに欲望を見出すのだ。

そういった記号を消費する男たちの歪んだ性癖に、わたしたちは戦慄する。それは直接的にはその性癖自体の気味悪さにおののくのだが、同時に目の前にいる裕美たちひとりひとりの人間がみな、現金と引き換えに入手できる記号としての「女子高生」に置き換わってゆくさまを、まざまざと見せつけられるからかもしれない。

このように、本作では男たちの欲望を、あくまでも社会的な文脈に依存した欲望として描くのだ。

思った時に始めたり手に入れたりしないとダメ

一方、本作に登場する女子高生たちは、「やりたいことや欲しい物は、思った時に始めたり手に入れたりしないとダメなのだ」という、他の誰のものでもない自分の内側から湧き出てきた個人的な欲望に忠実だ。

主人公の裕美が援助交際を決意するのも、偶然見かけたトパーズの指輪に強烈に心惹かれ、なんとしても入手しようと求めたからだ。その欲望はあくまで個人的なものだ。

あるいは高校を中退して、ダンスを習ってダンサーになろうと決意する友達の女の子もいる(名前を失念してしまった)。
そこに記号が入り込む余地はない。

まわりの人がもてはやしているからだとか、世の中で流行しているからだとか、誰かがいいねと言ったからだとか、という理由でダンスに専念しようとしているのではないからだ。

個人的な欲望に突き動かされている

さて、裕美の援助交際の相手として、最後に登場するキャプテン××は、これまで登場した男たちとは異質の男である。

まず、記号としての「女子高生」を消費しようとしていない。むしろ、そういう男を装って裕美に近づくのだ。ある邪悪な目的を持って。

ところでなぜキャプテン××は、最後に裕美に対して自分の思惑を告げ、裕美を解放したのだろうか。

それは、裕美が記号として消費される「女子高生」の範疇からはみ出していたからだ。

裕美は個人的な好意でキャプテン××のぬいぐるみの破れを繕う。その際、キャプテン××は自分の父親から聞いた、本当の名前をむやみに他人に教えてはならないという話を裕美に話す。このあたりは、「女子高生」が咀嚼したマスカットを要求するおじさんとは対照的である。

そんなキャプテン××もまた、裕美たちと同じ自分自身の内側から湧き出した欲望に突き動かされていた。その欲望は、それまで裕美たちが出会った男たちとは異質な邪悪で歪んだものであるが、個人的な欲望に突き動かされているという点では裕美と同じである。

だからこそ、自分と同じように個人的な欲望を抱く裕美を解放したのかもしれない。人間は自分と同じ匂いのする人間を邪悪に扱うことはできないからだ。

映画の概要・受賞歴など

映画『ラブ&ポップ』は1998年の日本映画。監督は庵野秀明。ちなみに本作のエンドロールなどには「監督 庵野秀明(新人)」と表記されている。

原作は小説家・村上龍の『ラブ&ポップ トパーズⅡ』(1996年刊行)。

参考リンク

1)映画.com/『ラブ&ポップ』
eiga.com


2)Filmarks/『ラブ&ポップ』
filmarks.com

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