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誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

お前たちも真剣に闘っているか? 子どもたちが応援したくなるくらいに/『ナチョ・リブレ 覆面の神様』

本当のヒーローとは

映画『ナチョ・リブレ』は、教会の修道院で働く料理人でもある修道士イグナシオがプロレスラーとなって活躍する姿を描くコメディ。主人公のイグナシオは、修道院の子どもたちに満足な食事を与えられないことに不満を抱いている。教会が料理に回してくれる予算が少ないからだ。

そんなイグナシオは、本当の名前も顔も伏せた覆面レスラー・ナチョとなる。場末のアマチュアプロレスに出場すれば、ファイトマネーを稼ぐことができる。そのお金で、子どもたちにもっと良い食事を食べさせられる。そこでイグナシオは街で出会ったひったくりの男スティーブンとともにコンビを組んで、覆面レスラーとして奮闘しはじめるが、というストーリー。

『ナチョ・リブレ』のストーリーは単純明快で、ベタと言えばベタな展開だ。(コメディ)映画的な紆余曲折があって、最後には強大な敵を打ち倒し、ハッピーエンドを迎えるのだろうと予想もついてしまう。でも、修道院の子どもたちのために奮闘するイグナシオの姿を、わたしたちはやっぱり応援しながら見守ることになる。

覆面レスラーのナチョとして子どもたちのために闘うイグナシオは小太りで背の低い、もっさりとしたさえない中年男性。その体型は三頭身、あるいは四頭身くらいに見えて、なかなかユーモラスではある。だが、見た目からしてお世辞にも”ヒーロー”とは呼べそうもないし、強そうでもない。それでも、あるいはそれだからこそ、イグナシオが必死に闘う姿にわたしたちはつい声援を送ってしまうのだ。

それは、イグナシオの闘う姿にわたしたちはヒーローの姿を見出すからだ。どんなにかっこ悪くて、みじめでぶざまな姿をさらそうとも、敵や困難に立ち向かい、その背中を子どもたちが目をキラキラさせながら応援するからだ。映画『ナチョ・リブレ』、本当のヒーローとはということをわたしたちに示す一本だと言える。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

敗北の末に芽生えた闘争心

イグナシオは、プロレスのチャンピオンである覆面レスラーのラムセスを街で見かける。ラムセスは筋肉もりもりの屈強な体型をしていて、見るからに強そうな姿。そんなラムセスは運転手付きの高級車に乗り、高価なスーツに身を包み、高級そうな店へと入っていく。あんなふうになれたらいいなあ、とイグナシオがラムセスにあこがれを抱くのもうなずける。

そんなイグナシオは、街で見かけたアマチュアプロレスのチラシを見かけ、そうだ、プロレスラーになれば大金を稼げると思いつく。プロレスラーになり、ファイトマネーを稼ぐ。そうすれば、孤児院の子どもたちにもっと良い食事を与えることができるからだ。なるほどたしかにうまい考えかもしれないけど大丈夫かなと、わたしたちは一抹の不安も覚える。

さっそくイグナシオはスティーブンを誘い、「ナチョとヤセ」というコンビを組んでリングに上がる。けれども、そもそもプロレスラーとしてはふたりとも素人だ。ふたりは試合に出場するたびに、ボロボロに負けてしまう。アマチュアのプロレスとはいえ、試合には屈強な連中が次々に出てくる。試合後の控え室でうつむくイグナシオの姿には、敗北と屈辱がまとわりついている。その姿を目撃するこちらまで、暗い気持ちになってしまう。そこまでして、お金を稼がなくちゃいけないのか。そう問いかけたくもなる。

そんな「ナチョとヤセ」のふたり、なぜか人気が出て、試合に負けてもファイトマネーをもらえる。目に見えて良くなる子どもたちの食事。敗北の末にもらったお金で、食事は良くなったのだ。イグナシオ自身、自分はそもそも素人プロレスラーなので、それでいいと思っているフシも感じられて、そこがまた物悲しさを感じてしまう。

けれどもやがて、そんなイグナシオの心に闘争心が芽生える。「リングの上で闘うのなら勝ちたい」。負け試合後の控え室でイグナシオはそう叫ぶ。純粋な勝利への意欲が爆発した瞬間だ。そう決心し、さっそくイグナシオはコンビを組むスティーブンとともにトレーニングに励む。ついにレスラーとしての闘争心が芽生えたのだ。

ここでわたしたちは、これから過酷なトレーニングをはじめるであろうふたりに声援を送りたくなる。ところが、そのトレーニングはコメディ的なもので、本当にこんなトレーニングで強くなれるのか大いに疑問を抱いてしまうものだが。

ただ、この場面は「誰かのために闘う」ことから「闘うからには勝ちたい」との意欲への変化を示す場面だ。とにかくイグナシオのレスラーとしての覚悟が画面から伝わってくる。闘っているんだから、負けてボロボロになりたくはない。闘う者としての素直な気持ちだ。そんなイグナシオを応援するファンが出てくるのもわかる。そんなイグナシオの一番の大ファンは孤児院の子どもなのだということが描かれる。

あこがれのヒーロー・ナチョ

本作には、イグナシオが扮する覆面レスラー・ナチョを熱心に応援する、太った男の子が出てくる。イグナシオは修道院で働いているが、その太った男の子はその修道院で暮らす子どもだ。この太った男の子の、イグナシオの覆面レスラーをあこがれの目で見つめるまっすぐな瞳が、とても印象的。その太った男の子、修道院で暮らす子どもたちの中で唯一、イグナシオが覆面レスラーとして、リングで戦っていることを知っている。

ところで、イグナシオがなぜ覆面をしているのかというと、教会ではレスリング(つまりプロレス)は悪であり、罪だから。イグナシオもまた教会の修道院で育った修道士なので、プロレスラーとなるのは教会や修道院への裏切り行為みたいなものなのだろう。それでイグナシオは、教会の人々や修道院の子どもたち、そしてあこがれの修道女には、自分がレスラーであり、プロレスのリングで闘っていることを秘密にしているのだった。

さて、修道院の子どもたちがみんなでテレビでプロレスを観ているシーンがある。教会の教えによって、プロレスを観ることは(もちろん闘うことも)禁止されているが、子どもたちはプロレスに熱中している。その日も子どもたちは、「ナチョとヤセ」の試合をテレビの前に集まって観戦していた。

テレビの画面の中では、今まさに相手レスラーの手によって、イグナシオのマスクが引きはがされてしまいそうなピンチを迎えてしまっていた。このままだとマスクがイグナシオの顔から外されてしまい、イグナシオの顔がテレビに映ってしまう。謎の覆面レスラーがいったい誰なのか、みんなにわかってしまう。あれは、修道院で料理をつくってくれているイグナシオだと。

そこで、その太った男の子はテレビ画面の前に立ちふさがる。他の子どもたちは、いいところでテレビ画面が隠されてしまったので、太った男の子に文句を言う。でも、そのおかげで、マスクを引きはがされてしまったイグナシオの顔を、他の子どもたちは目にすることができなかった。太った男の子がイグナシオを守ろうとする姿が、わたしたちの胸を打つ。

そのあと、けっきょく修道院ではイグナシオがプロレスラーだということがバレてしまって、イグナシオはメキシコの荒野に追い出されてしまう。太った男の子は、自分がとても大事にしていたものを、修道院を出て行くイグナシオに餞別として手渡す。太った男の子にとっては、イグナシオこそがあこがれのヒーローだからだ。

本当のヒーローとは、こんなふうに子どもたちから熱心に応援されて、ピンチに陥ったときには子どもたちが自分でできる手助けをしてくれるほどの人物なのだろう。応援されることとは信頼されることであり、その信頼は裏切ってはいけない。だから、イグナシオは決戦に向けて突き進むことができるのだ。子どもたちのため、あこがれの美人修道女のため、そしてなにより勝利をつかみ取るために。

お前たちも真剣に闘っているか? 子どもたちが応援したくなるくらいに

あるとき、イグナシオが子どもたちとともに街へ出かけ、たまたま覆面レスラー・ラムセスの姿を見かける。イグナシオは子どもたちのため、ラムセスにサインをねだる。けれども、ラムセスからサインを拒否されたあげく、冷たくあしらわれてしまう。そんなラムセスの姿に憤慨して、悲しむイグナシオ。ラムセスへのあこがれが見事にはがれ落ちる場面だ。
そして同時に、イグナシオの胸にプロレスラーとしての闘争本能が芽生える。どうしてもリングの上であのラムセスと闘いたいと。やがて幸運にもついに、ラムセスと闘う機会がめぐってくる。物語は最大のクライマックスを迎える。

経験も体型もまったく違うふたり。金持ちで傲慢、だが屈強で向かう所敵なしの覆面レスラー・ラムセス。そして孤児院育ちの修道士でレスラーとしては素人のイグナシオ。どう見ても、イグナシオに勝ち目はなさそうだ。いよいよリングに上がったイグナシオは、果たして見事にラムセスを倒すことができるだろうか。

イグナシオはイケメンでもない、スタイルも良くない、プロレスラーとして強いわけでもない。イグナシオは美人の修道女に心を奪われるけれども、部屋で一緒にトーストをかじることしかできない。でも、自分の力の限り闘っている。そのようなイグナシオの闘う姿は、わたしたちに問いを投げかける。お前も真剣に闘っているか? 子どもたちが応援したくなるくらいに、と。

映画『ナチョ・リブレ』、暑い夏にふさわしい熱い一本だ。

参考

1)Yahoo!映画/『ナチョ・リブレ 覆面の神様
movies.yahoo.co.jp

2)映画.com/『ナチョ・リブレ 覆面の神様
eiga.com

3)Filmarks/『ナチョ・リブレ 覆面の神様
filmarks.com

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