誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

自分の手で少しずつ変化を|バグダッド・カフェ

自分の手で少しずつ変化を|バグダッド・カフェ:目次

晦日に慌てて

この年末の大晦日で、アマゾン・プライム・ビデオの『バグダッド・カフェ』の配信が終わるということで、大晦日に慌てて観ることにした作品。1987年制作。

ちなみにプライム・ビデオにあったのは、『バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版』だった(と思う)ので、感想や参考リンクはそのエディションの内容を前提に書いてます。

バグダッド・カフェ』について

英語でのタイトルは"Bagdad Café"。ドイツ語の原題は"Out of Rosenheim"、直訳では「ローゼンハイムの外」。

このローゼンハイムとは、主人公のジャスミン(ドイツ語の発音ではヤスミン)が住んでいるドイツの地名。ジャスミン夫妻はローゼンハイムからアメリカを旅行していた。その故郷から外に出て出会ったのがバグダッド・カフェだったという物語だからのタイトルか。

修理が必要なコーヒーマシン

オープニングとエンディングで流れる、この映画の主題歌"Calling You"が、この映画の行方を示す。「この砂漠の道はベガスからどこへ? 今までよりもきっと良い場所」というフレーズがある。

モハーヴェ砂漠を抜ける車中で夫と喧嘩し、ひとり車を降りて砂漠を歩くジャスミン。一方、やっぱり喧嘩の末に夫を追い出したブレンダもまたひとりバグダッド・カフェの前で砂漠を眺めていた。

そこへ、併設しているモーテルに部屋を借りにきたジャスミンとブレンダが出会う……、という場面から物語は本格的に進み始める。

この物語は「修理が必要なコーヒーマシン」がひとつのキーアイテム。バグダッド・カフェには「修理が必要なコーヒーマシン」があって、なかなか修理されないままだけど、これは登場人物の心情や人生の象徴ですね。みな、なにかしら修理が必要な人々なのです。

勝手に掃除されちゃ

この物語の主人公・ジャスミンは冒頭で夫と激しくケンカするものの、バグダッド・カフェにたどり着いてからは無口で無表情。もう一方の主人公・ブレンダは常にガミガミ不平と不満を口にする。この対照的な二人の中年女性が出会うことで化学反応が起こる。

心の奥底ではうんざりした今の生活や人生から抜け出したいと望んでいる点では、この二人には共通点がある。でも、互いにその共通点を持っていることが判明するのは、物語も後半を過ぎてから。ブレンダは無口で陰気なジャスミンを追い出そうと画策さえする。

けれど、その対立的な関係に変化をもたらしたのはジャスミン自身の動き。乱雑で古いバグダッド・カフェの掃除に取りかかる。このバグダッド・カフェの乱雑さはブレンダの心理の投影であり、ブレンダ自身が抜け出したい世界そのものなのだろう。

けれど、ブレンダがそんな世界から抜け出したいと思っていてもどうすればわからないところに、ジャスミンがやってきて勝手に掃除や片付けまでされちゃたまらないのは理解できる。だからこそ、ブレンダは片付けたモノを元に戻せとジャスミンに告げるのだろう。

抜け出したいと望んでいるのに、その世界から一歩外に出ることが想像できないし、行動できない。だからこそ、今いるこの世界に踏みとどまらざるを得ない。そんな矛盾をブレンダは抱えている。

自分の部屋で考えるとわかりやすいかもしれない。乱雑な部屋を眺めて、掃除しなきゃいけないなと理解しつつも、そのままでも居心地が良いので、なかなか片付けに踏み切れないところに他人がやってきて勝手に掃除なんかされちゃね。

驚きを伴った変化

それでも、ブレンダの子どもたちは次第にジャスミンに懐くし、彼女によるマジックでカフェにはお客さんが詰めかけるようになる。このようにジャスミンは、はじめのころの無口で無表情なキャラから、笑顔あふれる感情豊かな人物へ変わっていく。

同様に、ブレンダもまた少しずつ心を開き、そして新しい世界へと踏み出す。いつもガミガミと不平と不満だらけだった彼女は笑顔を浮かべ、生活と人生を楽しんでいる表情に変化する。

ジャスミンのマジックが、人生に疲れた二人の中年女性の生活と人生を劇的に変えるのですね。まさにマジックのように。芸は身を助けるとはこのことか。

ところで、ジャスミンによる掃除とマジックはつながっているようにも思える。掃除もマジックも、自分の手で何らかの変化を生み出すものだから。

掃除は今いるこの場所の混沌を整理し、不要なものを捨てること。時に掃除する前との変化に驚くこともある。大掃除の時とかね。一方で、マジックは自分の手でなんらかの驚きを伴った変化を生み出すもの。それにどちらも準備と手順が必要だし。

そんなふうに、映画『バグダッド・カフェ』は掃除に取りかかりたくなり、そしてマジックを覚えたくなる物語。2023年最後の一本でした。

参考リンク

1)バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版/KINENOTE
www.kinenote.com

2)バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版/Filmarks
filmarks.com

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