誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

雑多で取り留めのない現実だからこそ|ブルー・イン・ザ・フェイス

雑多で取り留めのない現実だからこそ|ブルー・イン・ザ・フェイス:目次

捕まえたひったくり犯

たとえばあなたが道端で知り合いと立ち話しているとき、道の向こうで若い女性がバッグをひったくられたと叫ぶのが聞こえる。そのすぐあとにあなたのそばをバッグを持った犯人が走り去ってゆく。

正義感みたいなものに突き動かされ、あなたはその犯人を追いかけ、あっさりと捕まえる。ひったくりの犯人は、まだほんの子ども。日本で言えば小学校4、5年生といったところ。追いついた若い女性があなたの捕まえた犯人の姿を見て驚く。

犯人を捕まえたあなたは子どもとは言え、ひったくりの犯人なのだから、警察に突き出すと主張。善悪というものを教え込まなきゃいけないから。

一方、若い女性はバッグも取り戻したんだし、犯人はまだほんの子どもだから許してあげてほしいと、あなたに告げる。そんなとき、あなたならどうするだろうか?

自分なりのスジ

映画『ブルー・イン・ザ・フェイス』の主人公であるブルックリン葉巻商会の雇われ店主オーギー・レンは、引ったくりの子どもに若い女性のバッグを渡して逃げるように告げるのだ。

わたしの目からすると、ひどく奇妙でいささか乱暴な解決だが(当然に若い女性は怒って、逃げる子どもを追いかけていく)、この物語の主人公であるタバコ屋の雇われ店長オーギー・レンなりの倫理観や性格、スジの通し方を見せる部分なのだろう。

自分なりのスジみたいなものを確固として持っているおじさん。それがタバコ屋の雇われ店長オーギー・レン。だが、そんな人物だからこそ、彼のいるタバコ屋は近所の雑多な人々がいつも集まっているのだろうし、彼のモテる所以なのだろう。

この物語は、そんなタバコ屋の雇われ店長オーギー・レン、見かけはあまりパッとしないようなおじさんなのだけれど、これがよくモテる。

恋人のヴァイオレットはオーギーに首ったけすぎて、ほかに恋人がいるのかと嫉妬する。また、タバコ屋のオーナー・ヴィニーの妻であるドットも激しく情熱的にオーギーに迫ったりする。

雑多で取り留めのない現実

こんなオーギーの恋愛模様とともに、オーナーのヴィニーがタバコ屋を閉めて健康食品の店にしようとする計画が持ち上がる。よくある映画だとオーギーと常連客が閉店を阻止すべく団結して立ち上がる、みたいな展開になるけれど、この映画はそうならない。

オーギーや常連客は自分たちのことで手一杯(なんだけど、追い込まれている感じも悲壮感もない)。オーギーも常連客もとりとめのない会話を交わし、笑い合い、そしてやり場のない思いをぶつける。

このように映画『ブルー・イン・ザ・フェイス』は、雑多な会話劇・群像劇なのだが、これはこの物語の主人公オーギー・レンが店長を務めるニューヨークはブルックリンの状況の反映であり描写なのだろう。

だから、この映画には実際の街の様子や人間模様なんてこんなふうに雑多で取り留めのないものだよね、みたいな雰囲気があふれている。

ヴィニーがタバコ屋を閉店させて健康食品の店にしようと思いつき、そしその考えをて取り消す流れなど、とりとめもなく、論理的な必然性みたいなものもなく、そして非現実的なんだけど、人間のリアルな思考はそういう感じなのかもしれない。

だからこそ、インチキな哲学的統計調査をするマイケル・J・フォックスや、禁煙をするために最後の一本を吸いにタバコ屋にやって来たジム・ジャームッシュや、歌う電報のマドンナだって、不思議とブルックリンの空気に馴染んでいるように見えるのかもしれない。

人間は奇妙でおかしくて、でもだからこそ愛おしくて愛くるしい。そんなことを訴えているようにも思える。

『ブルー・イン・ザ・フェイス』について

映画『ブルー・イン・ザ・フェイス』、原題も”Blue in the Face”。元は映画『スモーク』の制作日程が余ったので、そこで急遽撮影されたという。

この物語はオーギー・レンが店長を務めるタバコ屋にやってくる客たちの群像劇。

この物語の主人公はもちろんタバコ屋の店長、オーギー・レンなんだけど、もうひとりの主人公は舞台にもなっているニューヨーク・ブルックリンの街そのものだ。場面転換などに出てくる人々が統計を語るが、それがブルックリンがいかに多種多様な人々であふれているのかを示している。

ちなみに、わたしは2016年にも同じ映画で感想を書いてますので、ご興味がありましたらそちらの記事もご覧ください。記事の最後にリンクがあります。

参考リンク

1)ブルー・イン・ザ・フェイス/KINENOTE
www.kinenote.com

2)ブルー・イン・ザ・フェイス/Filmarks
filmarks.com

3)奇妙でおかしく、混乱していてあたたかい/『ブルー・イン・ザ・フェイス』/誤読と曲解の映画日記
nobitter73.hatenablog.com

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