誤読と曲解の映画日記

映画鑑賞日記です。

2016年映画日記ブログ アクセス数ランキングとおすすめ記事/12月と2016年のまとめ

ブログをはじめて1年が過ぎました

こんにちは。『誤読と曲解の映画日記』管理人の”のび”です。
さて、このブログを今年の1月に立ち上げてから、1年が経とうとしています。

もともとは、せっかく映画を観たのだから、映画を観ながら抱いた感想や疑問などを忘れないように書き留めておこうとはじめたのが。このブログです。なんとか月に2本の感想を書くという行為を1年間続けることができて、ホッとしています。

しかし、以前にも書きましたが、映画を観る時間よりもその映画についてのブログ記事を書く時間の方が長いということが、もっぱらの悩みです。また、観たい映画はたくさんあるのに、忙しくてなかなか数をこなして観ることができない、というのも悩ましいところです。たくさん映画を観て、たくさんレビューや感想を書ける人が羨ましい限りです。

まあ、そんなこんなで『誤読と曲解の映画日記』、年が明けると2年目に突入します。

さて、今回は、いつもの今月のまとめに加えて、2016年のまとめとして、年間のアクセス数が多かった記事のランキングと、管理人が個人的にオススメの記事ランキングを載せています。それでは、どうぞ。

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邪悪な存在に絡め取られた才能/『バートン・フィンク』

バートンの才能を削り取った三人の男たち

映画『バートン・フィンク』は、ひとりの才能あふれる劇作家の若者が、邪悪な存在に触れ続けてしまったことで、その邪悪さにからめ取られてしまった物語と言えるだろう。ひとりの才能あふれる若者は、永遠に凡庸の枠に閉じこめられてしまった。もう二度とそこから出られることはないだろう。そういう意味で、非常にグロテスクで後味の悪い一本だ。

この物語は、ニューヨークの劇作家バートン・フィンクなる人物が主人公。バートンは庶民の生活を描いた演劇で高い評価を受けている。けれども彼自身は、もっと良い作品を書きたいと望んでいた。もっと社会の片隅に生きる人々の生活を描きたい、と。

そんなバートンにハリウッドの映画会社から声がかかる。映画の脚本を書く仕事を依頼されたのだ。バートンはしぶしぶながらもロス・アンジェルスにまでやってくる。そこで映画会社の社長から依頼されたのは、B級レスリング映画の脚本。バートンは困惑する。それは自分の書きたいものではないからだ。

それでもバートンは滞在先のホテルで脚本の執筆に取りかかる。うだるような暑さに支配されたホテルの部屋。あまりの暑さに壁紙の糊が溶け、壁紙が剥がれてしまうほどだ。そんな部屋で執筆をはじめても、バートンはまったく何も書けずに苦悩するばかり。そんなとき、バートンは隣の客室に滞在している保険外交員チャーリー・メドウズと出会う。チャーリーの人懐っこさもあって、ふたりは意気投合するが……、というストーリー。

筆が進まずに苦悩するバートンは、三人の男たちと出会う。三人の男たちは、みな親切そうな表情を浮かべているが、その顔の下に冷酷さや残忍さを隠し持っている。あるいは邪悪さとも言えるだろうか。バートンは三人の男たちの邪悪さに少しずつ冒されて、その才能を削り取られ、激しく損なわれてゆくのだ。

まず、いちばん邪悪な人間といえば、保険外交員チャーリーだろう。人懐っこい笑顔を常に浮かべ、バートンの話に耳を傾け、バートンの信頼を得てしまう。次にB級レスリング映画の脚本を迫る映画会社の社長。そして、酒浸りで小説家P・W・メイヒュー。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

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想像力と支配欲の先にあるグロテスクさが物足りない/『ルビー・スパークス』

想像から生まれた”理想の恋人"

映画『ルビー・スパークス』は、支配欲にとらわれた人間が、痛い目にあって成長する物語だと言えるのかもしれない。主人公のカルヴィン・ウィアフィールズは小説家。デビュー作は大ヒットしたけれども、今ではスランプに陥り、何も書けずに苦悩していた。そんなカルヴィンは精神科医のところに通うが、医師の勧めで夢に出てきた女の子を主人公にした小説を書きはじめる。

ところがある朝、カルヴィンの書く小説のヒロイン、ルビー・スパークスが現れる。カルヴィンは戸惑いながらも、彼女との楽しい生活をはじめる。やがて、彼女の言動はカルヴィンが書いた小説のとおりになることに気づく。理想の彼女ルビー・スパークスとの生活をカルヴィンは楽しむが……、というストーリーの恋愛映画だ。

この物語、人間が意のままに人間を支配するグロテスクさを描く物語でもあるので、そのグロテスクさをしっかりと描写すれば、もう一段深みのある物語になったと思われる。

支配しようとするカルヴィンと支配を拒むルビーの衝突が今ひとつありきたりであったからだ。特にクライマックスとも言える場面、カルヴィンがページを書き足していくたびに、ルビーの言動がころころと変わる場面の描写が少々漫画的に見えてしまったからだ。そういった理由で、深みの足りない物語になってしまったところが少々残念であった。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

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フィデルのせいで/2016年11月のまとめ

映画『ぜんぶ、フィデルのせい

先日、キューバの前国家評議会議長フィデル・カストロ氏が亡くなりました。

フィデルは言うまでもなくキューバ革命を起こした革命家です。熱狂的な支持から独裁者としての批判まで、革命を成し遂げた政治家には毀誉褒貶が付きまといますが、ここではフィデル・カストロの生涯や評価には踏み込みません。

フィデル・カストロの死を伝えるTwitterのタイムラインを眺めていたら、映画『ぜんぶ、フィデルのせい』の紹介が流れてきました。カストロに関連する映画ということで流れてきたものです。わたしは「へえ、こんな映画があるんだ。今度観てもいいかもしれない」と、そのとき思ったのですが、今度は別のTweetで『ぜんぶ、フィデルのせい』の予告編が流れてきました。

その『ぜんぶ、フィデルのせい』の予告編をYouTubeを観ていると、「あっ、この映画観たことあるぞ」ということに突然気づきました。予告編で流れる映像には、映画の中に出てきた場面がいくつもの断片となって映し出されていて、その場面の断片によって、わたしがかつてこの映画を観たことがあるという記憶を呼び起こしたのです。

つまり、わたしは映画『ぜんぶ、フィデルのせい』を過去に観たことがあったのですね。つまりは、映画『ぜんぶ、フィデルのせい』のストーリーや内容の多くの部分、もっと言えばその映画を観たこと自体を、わたしは忘れ去っていたわけです。

そのことにちょっと愕然としましたが、よく考えてみれば、映画の場面やストーリーの多くは、忘れ去ってしまうものでもあります。印象に残った断片的な記憶やイメージだけを、あとでわずかに思い出すことができる、それが映画だと言えばそうなのかもしれません。

まあ、本だってその内容のすべてを覚えているかと言うと、ほとんど忘れ去ってしまうのですが。わたしの記憶力が悪いだけという話なのかもしれませんけど。

参考)映画『ぜんぶ、フィデルのせい』/yahoo!映画
http://movies.yahoo.co.jp/movie/329190/

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虚栄心とプライド、そして破滅/『ブルージャスミン』

希望など、どこにも見出せない

映画『ブルージャスミン』は、落ちぶれたセレブがさらに救いようのないところまで落ちてゆくのを描く物語だ。ウォッカと精神安定剤を常に手にするジャスミンの、華やかな過去と痛々しい現実を対比させながら物語は進む。ひとことで言うと『ブルージャスミン』は救いようのない物語である。それは虚栄心と嘘から逃れることができなかった末に陥ってしまう破滅を目の当たりにするからだ。

主人公のジャスミンがニューヨークからサンフランシスコへとやってくるところから、この物語ははじまる。飛行機で隣合わせた乗客に向かって自分のことをまくしたてて話し続けるジャスミンの姿に、この人はどこか普通じゃないところがあるなという予感をわたしたちに抱かせながら物語は幕を開く。

この物語が映画的なラストを迎えたとき、ベンチに座るジャスミンの姿がわたしたちの胸を締めつける。ひとりの人間の破滅を目撃してしまうからだ。わたしたちはこの物語を通して、たびたび顔を出すジャスミンの虚栄心と嘘に呆れながらも、彼女なりの努力と奮闘を目の当たりにし、その努力と奮闘が彼女の人生をより良き方向に導くように願ってきた。けれどもその努力と奮闘は、けっきょく最後には灰燼に帰してしまう。

ここで物語は映画的な終幕を迎えるが、ジャスミンの人生はこれからどうなってしまうのだろうという思いが、引っかき傷のようにわたしたちの胸に残される。映画『ブルージャスミン』は、とても苦い後味を残す作品だ。希望など、どこにも見出せないからだ。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

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