誤読と曲解の映画日記

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厚い信頼に基づいた強い結びつきを描く物語/『最強のふたり』

厚い信頼に基づいた強い結びつきを描く物語/『最強のふたり』:目次

人間同士のあたたかな心の交流

映画『最強のふたり』は、介護する側と介護される側との関係を超えた友情の物語だ。人間はどんな境遇にあっても、親しい誰かとのあたたかな心の交流が必要だと訴える物語だと言えるだろう。

この映画で介護する側のドリスは、もともと介護の仕事を求めていたわけではなかった。彼が求めていたのは、失業給付を受けるための証明だった。すなわち、就職活動をしたのちに不採用になったという証明をもらうために、面接へやってきただけだったのだ。

けれども、介護される側であり、同時に雇用する側でもあるフィリップは、型破りなドリスを気に入ってしまう。面接で、誰か(つまり、職業安定所など)の紹介はあるか? との意味で、「推薦はあるか?」と尋ねられたドリスは、自分のオススメの音楽を答えてしまう。その珍妙な受け答えが決定打となって、ドリスは採用されることになる。フィリップははじめからドリスの飾らない個性を評価したのだ。

パラグライダーの事故で、首から下を動かすことができなくなったフィリップ。そのフィリップを介護することになったドリス。もちろん、ドリスには介護についての資格も知識も経験もない。だから、ある意味で型破りな介護ができるのだ。

たとえば、フィリップが出かけるときに車椅子のスペースのあるワゴン車に乗ろうとするが、ドリスはそれを拒む。車椅子に乗ったフィリップを「馬みたいに荷台に載せる」ことに疑問を抱くのだ。そしてドリスは、そばにシートをかけたまま置いてあった高級車マセラティの助手席にフィリップを乗せて走り出す。

そのようなドリスとフィリップとの間に、介護する側と介護される側という関係を超えた個人的な結びつきがはじまる。その異質な結びつきが、普通の介護関係では得られないような、人間同士のあたたかな心の交流を生み出し、フィリップを、そしてドリスを変化させてゆくのだ。そんなふたりの心の交流を目の当たりにすることで、わたしたちもまた温かな気持ちになる物語である。


※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。

孤独を抱えていたフィリップ

ドリスを介護人として雇ったフィリップは大富豪だ。大きな邸宅に住み、駐車場には高級車が置いてある。秘書や使用人を雇っている。また、オペラやクラシックといった古典的な音楽から、現代美術や文学にも通じている。フィリップは単なる金持ちではなく、教養も豊かな富豪として描かれる人物だ。けれども、そんなフィリップは孤独を抱えている。

フィリップはパラグライダーの事故で、首から下の身体を動かすことができない重い障害を負うことになった。そんなフィリップは、「いちばんの障害は妻の不在だ」と語るほど、妻がいないことにダメージを負っている。フィリップの妻は流産を繰り返した挙句、不治の病でこの世を去っていたのだ。

そんなフィリップには養子に取った娘がいるが、フィリップとは疎遠で自宅に彼氏を連れ込んだり、ドリスや他の使用人たちを見下すところがある。義理の父親のフィリップから心が離れてしまっている。また、フィリップはある女性と文通しているが、会いたいという気持ちを抑えていた。自分が重い障害を負っている事実を相手に知られること、そしてそのときの相手の反応を恐れているのだ。だから、距離を縮めたくてもそうできないというジレンマに陥っていた。

けれども、フィリップの孤独は、ドリスの少々強引とも言えるお節介のおかげで、少しずつ解消されてゆく。娘やその彼氏に厳しいしつけをしたり、文通相手に電話をかけて直接会う約束を取り付ける。ドリスがいなければ、フィリップはこのようなことに踏み切ることはできなかっただろう。その意味でフィリップはドリスに救われ、変化してゆくのだ。

ドリスの複雑な事情

一方、フィリップを介護する側のドリスも複雑な問題を抱えている。いつまでも仕事が見つからなかったために金を稼げなかったドリスは義理の母親になじられ、それがもとで大喧嘩してしまい、家を出て行けとまで言われてしまっていた。

そのために、兄弟姉妹たちのいる賑やかな家には戻れなくなってしまっていた。そんなときにドリスはフィリップの介護をすることになり、フィリップの邸宅に住み込みで働くことになったのだ。ある意味で、ドリスも孤独を抱えていたと言えるだろう。

そんなドリスがフィリップの介護を始めてほどなくして、フィリップの親戚がやってくる。親戚はフィリップに、調べ上げたドリスの過去を教える。ドリスは以前、宝石強盗をやったせいで6ヶ月間服役していた過去を持っている前科者だから気をつけろと、この親戚はフィリップに忠告するのだ。そのような過去を持っているからこそ、ドリスは職に就くことを半ばあきらめ、金を稼げない自分に苛立っていたのだろう。

けれども、フィリップは親戚の忠告をはねつける。過去のことは私には関係ないと。フィリップの中では、型破りな介護をするドリスを。このときすでに心から信頼していたのだろう。ある意味で、ドリスもまたフィリップに救われてゆくのだ。

だから、ドリスが冒頭にフィリップの屋敷からこっそりと盗んでしまったタマゴの行方を必死で追い求めるのは、フィリップの信頼を裏切ることはできないという、ドリスの成長であり変化を描いた部分だと言える。ドリスはフィリップのおかげで、強盗だった過去の自分と決別できたのだ。

厚い信頼に基づいた強い結びつき

わたしたちの感覚からすれば、この物語には思わず眉をひそめてしまうようなことや、そんなことまでやってしまって大丈夫なのかと思わずハラハラと心配してしまうようなことまで描かれる。

たとえば、冒頭の場面。夜のパリをマセラティで飛ばす場面では、スピードの出し過ぎで警察に車を止められる。警察にスピードを出していた理由を聞かれ、フィリップが発作の真似事をして、病院に急ぐためにスピードを出したと弁明する場面がある。

また、フィリップとドリスがオペラを鑑賞する場面。フィリップが文通相手に写真を送らないのにしびれを切らしたドリスが、写真には車椅子が写っていなくていいと忠告する。チャリティー番組で同情を引くためじゃないからと言いながら、白目を剥き、舌をだらしなく口から出して、大げさな感じで障害者の真似事をする場面がある。

いずれも、わたしたちの感覚からすれば、そんなことを映画で描いてしまうとネットで「炎上」してしまうんじゃないかと、ハラハラと心配してしまう場面だ。けれども、それもすべてドリスとフィリップとの間にある、厚い信頼に基づいた強い結びつきが、その根底にあるのだ。そのような個人と個人との心からの結びつきが、わたしたちの心まで温めるのだろう。

映画の概要・受賞歴など

映画『最強のふたり』は、2011年制作のフランス映画。監督はエリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ。原題はフランス語の”Intouchables”。英語では”Untouchable”となる。直訳すれば「触れることができない」「触れられない」という意味だが、「無敵の」や「聖域として守る」などの意味もある。

ここでは、深い繋がりを持った二人の関係は、誰にも侵すことのできない神聖な関係、強い結びつき、みたいな意味だろう。日本語のタイトル『最強のふたり』も、ここから来ているのだろう。

本作は、実在の人物であるフィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴと、その介護人アブデル・ヤスミン・セローをモデルにした、実話に基づく物語である。ただし、映画では事実関係と異なる部分もある。

※この項目は、wikipedia日本語版「最強のふたり」の項目を参考にしました。

参考リンク

1)Yahoo!映画/『最強のふたり
movies.yahoo.co.jp

2)映画.com/『最強のふたり
eiga.com

3)Filmarks/『最強のふたり
filmarks.com


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